任意売却における特殊事項としてハンコ代の支払いが必要なケースがあります。
任意売却をおこなってもハンコ代が発生しないことがあるため、ご存じない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、任意売却におけるハンコ代とは何か、ハンコ代の相場やハンコ代が発生する場合についてご紹介します。
任意売却におけるハンコ代とは?
まずは、任意売却におけるハンコ代とは何か、ご紹介します。
ハンコ代とは
任意売却におけるハンコ代とは、簡単に言うと債権者(お金を融資した方)が抵当権を抹消するために押す印鑑にかかる便宜上の費用のことです。
債権者が印鑑を押した書類を法務局に提出することによって抵当権の抹消が成立します。
抵当権を抹消すると、登記事項証明書(登記簿謄本)上に記録されている抵当権の部分にアンダーラインが引かれ、削除される仕組みです。
ハンコ代は、担保解除料と呼ばれることもあります。
任意売却とハンコ代の関連性
任意売却とは、さまざまな事情で住宅ローンの支払いが困難になった債務者(お金を借りている方)が、債権者の許可を得て一般の不動産と同じように売却をおこなうことです。
競売とは異なり、周囲に知られにくく、市場価格に近い価格で売却できるメリットがあります。
住宅ローンを組んで不動産を購入する場合、債権者は不動産を担保にとるための権利である抵当権を設定しています。
抵当権が設定されたままの不動産を売却することはできないため、売主は売却前に抵当権を抹消しておかなければなりません。
本来なら住宅ローンを完済した段階で、不動産所有者が抵当権抹消の手続きをおこないます。
しかし、任意売却では住宅ローンを完済していない状態で抵当権を抹消しなければならないため、債権者に許可を得る必要があるわけです。
債権者は融資金の回収のため、抵当権の抹消を拒否することは少ないと考えられますが、そうではない場合があります。
なぜなら、抵当権には順位(抵当権を設定した時間的な順番)があり、第1抵当権者以外の後順位抵当権者は、融資金を回収できる可能性が低いためです。
たとえば、第1抵当権者が2,000万円、第2抵当権者が1,000万円、第3抵当権者が500万円を融資していたとします。
任意売却による売却金が3,500万円以上ならすべての抵当権者に配分できますが、実際にはそこまで高値で売却できることはほとんどありません。
売却金は抵当権の順位にしたがって充当されるため、仮に売却金が2,000万円だった場合、第1抵当権者のみが全額を回収できます。
このように第2抵当権者と第3抵当権者は、融資金の回収ができないため、抵当権の抹消に協力するメリットがありません。
そのため、抵当権抹消の手続きをおこなってもらえない可能性が考えられます。
そこで抵当権の抹消に協力してもらうために便宜上支払うのが、ハンコ代なのです。
不動産業界における慣例と言っても良いかもしれません。
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任意売却におけるハンコ代の相場
複数の債権者がいる場合に必要なハンコ代は、どのくらい支払う必要があるのでしょうか。
ここでは、ハンコ代の相場についてご紹介します。
一般的なハンコ代の相場
実はハンコ代に明確な基準はありません。
そのため、債権者によって費用は異なりますが、10万円から100万円が一般的だと言われています。
一口に債権者と言っても、金融機関や保証会社から貸金業者、リース会社までさまざまな企業があります。
相場にここまで差があるのは、債権者の違いによるものです。
金融機関や保証会社などは、ハンコ代に関する対応を日常業務のなかでおこなっているため、トラブルが起きることはほとんどありません。
しかし、貸金業者やリース会社などが相手の場合は、高額なハンコ代を請求されることがあるため、注意が必要です。
以前に返済に関するトラブルを起こしたことがある場合も、抵当権の抹消に応じてもらいにくいでしょう。
ただし、競売はルールが厳格化されており、ここまで進むと後順位抵当権者は1円も回収できないため、任意売却でハンコ代を得られるうちに協力したほうが得です。
任意売却を円滑に進めるためには、このことを念頭に置き、万が一高額な請求をされても不動産会社と協力して粘り強く交渉をおこなうことが大切です。
住宅金融支援機構が定めるハンコ代
ハンコ代には明確な基準がないとお伝えしましたが、債権者のなかでも住宅金融支援機構のみ、下記のように明確な規定を設定しています。
●第2抵当権者:30万円または残元金の1割のいずれか低いほう
●第3抵当権者:20万円または残元金の1割のいずれか低いほう
●第4抵当権者以下:10万円または残元金の1割のいずれか低いほう
住宅金融支援機構は誰かに融資をおこなう際、第1抵当権者であることを条件にしています。
つまり、住宅金融支援機構は第1抵当権者になれる場合にしか融資をおこなわず、後順位抵当権者には多くても30万円以上の配分をおこなうつもりはないと明言しているのです。
この規定に従えば、どんなに高額な物件であっても後順位抵当権者が得られるハンコ代は30万円までです。
住宅金融支援機構が規定したハンコ代の目安は、ほかの債権者が参考にする場合もあります。
なお、債務者の資金繰りについては、債権者が多いほど住宅ローンの返済に充てたほうが得をすることを覚えておきましょう。
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任意売却でハンコ代が発生する場合としない場合
最後に、任意売却でハンコ代が発生する場合としない場合についてご紹介します。
ハンコ代が発生するのは?
ハンコ代が発生するのは、債権者が1人ではなく、複数人いるときです。
先述したように、ハンコ代は融資金を回収できる可能性が低い第2抵当権者以下の後順位抵当権者に対して支払う便宜上の費用です。
ハンコ代を支払わなければ抵当権抹消の協力を得られず、任意売却ができない可能性が高まります。
任意売却ができなければ不動産は競売にかけられ、近隣に知られたり、低い価格で売却されたり、居住者を無視したスケジュールで手続きが進んだりするため、デメリットが多くなってしまいます。
そのため、後順位抵当権者に支払うハンコ代は、返済費用とは別にしっかりと用意しておくことが大切です。
ハンコ代が発生しない場合
ハンコ代が発生しないのは、債権者が1人のみの場合または複数の債権者から借りているローンの合計額以上の売却金を得られるときです。
つまり、融資を受けている先が1つなら売却金の配分について考えなくて良いため、ハンコ代は必要ありません。
任意売却による売却金でローンを完済できなかったとしても、残りの返済については、その債権者と相談することによって決められます。
もう1つは、売却金ですべての債権者に融資金を完済できる場合ですが、先述したように実際の売却金ですべての融資金を返済できることは稀です。
そのため、ハンコ代が不要なのは、債権者が1つのみの場合だと考えて良いでしょう。
このようにハンコ代が発生するのは特殊なケースのため、多重債務をおこなっていなければ、基本的には任意売却でハンコ代は発生しません。
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まとめ
任意売却では、複数の債権者がいる場合に抵当権抹消の協力依頼料としてハンコ代が発生します。
ハンコ代の明確な基準は決まっておらず、相場は10万円から100万円と債権者に応じて大きく異なります。
ハンコ代を支払わなければ抵当権の抹消をおこなってもらえず、任意売却ができないかもしれません。
そのため、多重債務がある方は、ハンコ代をしっかりと用意しておくことが大切です。