不動産を共有名義で所有している場合は、ほかの共有者の同意がなければ売却などの意思決定ができません。
共有持分のみであれば、同意を得なくても自由に不動産を取り扱えますが、共有持分に抵当権を設定することは可能なのでしょうか。
今回は、そんな疑問にお答えし、抵当権設定後に分筆した場合の影響範囲や、抵当権に関する3つの権利を解説します。
他の共有者の同意なしで共有持分に抵当権を設定できる?
そもそも抵当権とは、銀行などの金融機関が住宅ローンを貸し出す場合に、借り手の不動産を担保にする仕組みです。
もし、借り手がローンの返済を滞納した場合、金融機関はその不動産を売却して借金の返済を受ける権利を持ちます。
共有名義の不動産を所有している場合、他の共有者の同意がなければ売却などの意思決定ができないため、共有持分に抵当権を設定できるか疑問を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
結論として、自己持分であれば共有持分に抵当権を設定できるため、共有名義の不動産を利用して金融機関から融資を受けることは可能です。
他の共有者の同意は不要
共有地分のうち、自己持分のみであれば、他の共有者の同意を得ずに抵当権を設定できます。
ただし、住宅ローンの返済を滞納するなどして債務不履行に陥り、抵当権を設定した不動産が競売にかけられると、他の共有者にも影響が及ぶ可能性があります。
競売により第三者が持分を取得すると、他の共有者に対して持分の購入を提案する場合があり、これを拒否すると「共有物分割請求」を受ける可能性があるためです。
話し合いで解決できない場合は訴訟に発展する可能性があり、他の共有者が売却を望んでいないにもかかわらず、共有持分を手放さざるを得なくなるケースも考えられます。
現実的には共有持分を担保に融資を受けることは難しい
理論的には共有持分に抵当権を設定することは可能ですが、現実的には共有持分を担保に融資を受けることは難しいでしょう。
多くの金融機関が、不動産の共有持分のみに対する担保価値を認めていないため、融資の審査に落ちる可能性が高いのです。
共有持分に抵当権を設定したい場合は、まず共有持分の担保価値を認めてくれる金融機関を見つけなければなりません。
共有者であれば抹消登記ができる
共有持分に抵当権を設定できた場合、債務者が住宅ローンを完済した後ならば、共有者であれば抹消登記ができます。
抵当権は、債務の完済にともなって自動的に外れるものではないため、登記から抵当権を外すためには「抵当権抹消登記」の申請が必要です。
共有者本人であれば、単独で抹消登記の手続きをおこなえるため、住宅ローンの完済後は忘れずに抹消登記をおこないましょう。
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共有持分に抵当権を設定した不動産を分筆した場合の影響範囲
不動産の共有名義を解消したい場合の対処法として、先述した共有物分割や分筆といった制度を活用することがあります。
ここで気になるのは、共有持分の抵当権を設定した不動産を分筆した場合、影響範囲がどこまで及ぶのかといった点ではないでしょうか。
抵当権の影響範囲について、分筆の例などを交えながら解説します。
抵当権が不動産全体に影響を及ぼすことは基本的になし
共有持ち分のみに抵当権が設定されている場合、この状況から分筆をおこなったとしても、抵当権の影響範囲が不動産全体に及ぶことはありません。
共有物分割に関しても同様で、不動産が単独名義になったとしても、共有物分割をおこなう前に設定した抵当権の影響範囲は、もともとの持分割合のみです。
分筆や共有物分割をおこない場合に、不動産全体に影響範囲が及ぶことを希望するならば、金融機関と債務者が共同で「抵当権の効力を所有権全部に及ぼす変更」登記をおこなう必要があります。
移転された持分は抵当権の影響下にはない
共有名義を解消するために共有物分割をおこなうケースを想定してみましょう。
仮に100坪の土地をAとBが2分の1ずつの共有持分で所有しており、同意を得たうえでAが50坪の自己持分に抵当権を設定したとします。
その後、共有物分割により、Bの持分をAに移転することとなり、100坪の土地すべてがAの自己持分になりました。
この場合、抵当権の影響範囲はAがもともと所有していた2分の1の持分のみで、Bから取得した残りの2分の1の持分には、抵当権の影響が及びません。
分筆の例
分筆とは、土地などの不動産を物理的な手段で分割する手続きを指します。
先ほどの例と同じように、AとBが2分の1ずつの共有持ち分で土地を所有しており、同意を得たうえでAが自己持分に抵当権を設定したと想定しましょう。
その後、AとBそれぞれが所有する土地の2分の1を分筆したとしても、抵当権の影響範囲はAがもともと所有していた土地に限られます。
分筆により、BがAの所有していた土地の一部を取得したとしても、その土地には抵当権の影響範囲に含まれないため、Aが返済を滞納したとしても、Bの土地が競売にかけられることはありません。
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抵当権・地上権・法定地上権の3つの権利について
共有持分に対して抵当権を設定する場合は、3つの権利について知っておくことが重要です。
抵当権に関する3つの権利は「抵当権」「地上権」「法定地上権」です。
ここからは、抵当権にまつわる3つの権利の詳細について解説します。
3つの権利①抵当権
3つの権利のうち「抵当権」とは、住宅ローンを貸し付けた金融機関などの債権者が、不動産を担保として設定する権利です。
債務者が住宅ローンの返済を滞らせた場合、債権者は抵当権を設定した不動産を競売にかける権利を持ち、競売により売却した代金から債務の全部または一部を回収します。
つまり、住宅ローンの返済が難しくなった場合は、最終的に金融機関が抵当権を行使することになり、不動産は第三者に向けて売却されてしまうのです。
3つの権利②地上権
3つの権利のうち「地上権」とは、建物を所有している人物が、その建物が建っている他人が持つ土地を使用する権利のことです。
土地と建物の所有者が同一人物であれば、トラブルが発生することはなく、そのまま土地を使用できます。
一方で、土地と建物の所有者が別々の場合は、土地の所有者から同意と許可を得ない限り、その土地を利用することはできません。
土地の所有者と建物の所有者が話し合いをおこない、土地を使用する権利を得るために設定するのが地上権です。
3つの権利③法定地上権
3つの権利のうち「法定地上権」とは、法律の規定によって生じる地上権を指します。
権利が持つ意味合いや効力は、先述した地上権と変わりませんが、抵当権の設定により、土地と建物の所有者が別々になった場合に、建物の所有者に認められる権利が法定地上権です。
通常の地上権との決定的な違いは、土地の所有者と建物の所有者が同意しなくても設定できる点です。
仮にAが建物に抵当権を設定しており、金融機関が抵当権を行使し、建物が競売にかけられたケースをシミュレーションしましょう。
この場合、競売により建物を落札した人物は、土地を所有しているAの合意を得ずに、土地や建物を使用できることになります。
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まとめ
自己持分のみに抵当権を設定する場合は、他の共有者の同意を得る必要がありません。
共有持分に抵当権を設定した不動産を分筆した場合、抵当権の影響範囲は、もともと抵当権を設定していた範囲のみに限られます。
抵当権に関する3つの権利として覚えておきたいのは、抵当権・地上権・法定地上権です。